光が死んだ夏 両思いなのか？よしきと光の感情のすれ違いと関係性を考察

あの夏、失われたのは命だけじゃなかった――。『光が死んだ夏』を読み進めるたびに、胸の奥で静かに波紋が広がっていく。

「よしきと光は両思いだったのか？」という問いは、多くの読者の心に残る感情の伏線でもある。ホラーという枠に収まらない心理劇、その正体は“愛”なのか、それとも“執着”なのか。

本記事では、原作漫画およびアニメ『光が死んだ夏』をもとに、よしきと光（そして“ヒカル”）の関係性に潜むすれ違いと想いの重なりを徹底考察。ネタバレを含みつつ、両者の内面と物語構造を翻訳する。

彼らは本当に両思いだったのか？ その問いへの“答え”は、物語の闇の中に光る、わずかな真実の破片に宿っている。

『光が死んだ夏』の作品概要と世界観

原作とアニメ化情報：話題沸騰のホラー青春群像劇

『光が死んだ夏』は、モクモクれん氏によるホラー×青春の融合ジャンル作品。2021年から連載が開始され、現在は既刊6巻が刊行中です。物語は「死んだはずの幼なじみ・光が“帰ってくる”」という衝撃の幕開けから始まり、田舎の閉ざされた村で起こる不可解な事件と、少年たちの感情が交錯するサスペンスフルな展開が特徴です。

2025年7月5日からはTVアニメ化も決定しており、制作はCygamesPicturesが担当。監督・シリーズ構成を竹下良平氏が務めるほか、Netflixでの全世界独占配信も発表され、国内外から大きな注目を集めています。オープニング主題歌はVaundy、エンディングはTOOBOEと、音楽面でも話題性抜群の布陣が揃っています。

主要キャストには、小林千晃さん（よしき役）、梅田修一朗さん（ヒカル役）をはじめとした実力派声優が集結。すでにABEMAでの特番放送や第1話の先行上映イベントも告知されており、放送前からSNSでもファンの盛り上がりを見せています。

原作の評価ポイントとしては、「ジャンルを超えた人間ドラマ」と「感情の不気味さ」がよく挙げられます。ホラーでありながら、純文学的な香りも漂うセリフ回しや余白ある構成が、読み手の心を掻き乱す。この“曖昧さの居心地の悪さ”が、逆に魅力となっているのが面白いところです。

アニメ版でも、そうした感情の揺らぎや静けさの演出がどこまで再現されるかが、作品の成功を左右する要素になるはず。特に「ホラーの顔をした恋愛劇」とも称されるその文脈において、よしきと光の関係性にフォーカスした作劇は、観る者の感情を強く揺さぶることでしょう。

“光が死んだ”という絶望の中から始まる物語は、決して暗黒だけを描くものではなく、どこかで“好きだった”という想いを手繰り寄せるような、切実な心の記録でもあります。

田舎の閉塞感と異物感──舞台設定が心情を映す鏡に

物語の舞台は、木々に囲まれた小さな田舎の村。この村の“閉じられた感じ”が、作品全体に漂う息苦しさや孤独感、そして「逃げ場のなさ」を象徴しています。都会とは違い、人間関係が濃密であるがゆえに、異物が混じった時の“排除の感覚”がより鋭く描かれるのです。

ヒカル（＝偽物の光）が現れたことで、その異物感は一気に表面化します。日常がじわじわと侵食されていく感覚は、ホラーとしての見せ場でもあり、感情劇としての臨界点でもあります。そして、それは単なる“怪異”ではなく、よしき自身の心の奥深くに潜む感情の揺らぎとも直結しているように思えます。

この田舎という設定は、自然の美しさと人間の内面の闇が常に背中合わせであることを視覚的にも表現しています。昼間は穏やかに見えても、夜になると音ひとつがやけに響き渡る。この“静けさが怖い”という感覚は、よしきの心情そのものを映し出しているようにも感じられます。

筆者としては、この舞台そのものがひとつの“登場人物”なのではないかとさえ思う。田舎という環境が、よしきと光の関係性の距離感やすれ違いを、物理的にも感情的にも引き伸ばしている。つまり、「逃げられない空間」であるということが、彼らの感情の交錯により深みを与えているのです。

この作品の怖さは、“何かがいる”という恐怖よりも、“ここにしかいない”という圧倒的な孤独にある。その場所で、よしきは光と向き合わざるを得ない。その強制された“対話”が、物語をどこまでも切なく、そして美しくするんですよね。

よしきと光（ヒカル）の関係性を読み解く鍵

「死んだはずの光」が“帰ってきた”という不穏な始まり

物語の発端は、「死んだはずの幼なじみ・光が何事もなかったかのように帰ってきた」――という、あまりにも不自然で、しかし抗えないほど魅惑的な現象です。『光が死んだ夏』というタイトルがまず示すように、すでに“死”という決定的な断絶があったはずなのに、よしきの前に現れた“光”は、生前と変わらぬ表情、変わらぬ声で、彼に笑いかける。

しかし、その“光”は本物ではない。正確には、“ヒカル”という名前で呼ばれるべき存在であり、肉体も言動も光そのものなのに、心のどこかでよしきは「違う」と直感している。この“似ているけど違う存在”が日常に入り込むという設定が、本作の根幹にある不安定さと不気味さを象徴しています。

光の死という確定的な事実と、“ヒカル”という未確定な存在の間に揺れるよしきの心理は、サスペンスでもあり、恋慕でもあり、そして一種の執着でもある。それは、「戻ってきてほしい」と願う少年の純粋な願いと、「これは本当に彼なのか？」という理性の狭間にある、感情の漂流なのです。

筆者が感じたのは、この“光の帰還”という導入が、単なるホラー演出ではなく、「人は失ったものをどう愛し直すのか？」という哲学的テーマを抱えているという点。だからこそこの作品は、読み進めるほどに“怖い”というより、“切ない”のです。

そしてこの設定は、よしきと光の関係性を明確に“壊された上で再構築される”という物語装置にもなっています。もう元には戻らない。けれど、それでも「そばにいてほしい」と願ってしまう。その矛盾の中にこそ、“好き”という感情の本質があるのかもしれません。

よしきの心の拠り所としての光、そして「違和感」

よしきにとって光とは、単なる幼なじみではなく、“自分を保つための支柱”のような存在でした。田舎の狭い世界で、周囲にうまく馴染めず、不安と孤独を抱えるよしきにとって、光は唯一“無条件に受け入れてくれる人”だった。

だからこそ、光を失ったとき、彼の心はぽっかりと穴が開いた。その穴を埋めるようにして現れたのが“ヒカル”です。外見も声も、何もかもが同じ。でも、心のどこかで「違う」と思ってしまう。――この“違和感”が、よしきを何よりも苦しめる。

この「違うけれど、いてくれる」という存在が、逆に彼の心を歪ませていく。『光が死んだ夏』は、この歪みを、丁寧に、しかしじわじわと描いていきます。よしきは「これが本物であってほしい」と願いながらも、「本当は違う」と知ってしまっている。愛しさと恐怖が隣り合う、極限の精神状態です。

そして何より興味深いのは、よしきの「光であってほしい」という執着こそが、“ヒカル”という存在のアイデンティティを確立させている可能性があるという点。つまり、ヒカルはよしきの想いによって“形作られている”存在なのではないか――そんな妄想さえ許される構造を、この作品は持っています。

筆者としては、よしきの違和感は「他者への不信」ではなく、「自分の気持ちが揺らいでいることへの自己嫌悪」から来ているように思えます。好きだったはずの人に似ている“何か”を、好きになってしまう自分。その事実が、彼を最も追い詰めている。

両思いなのか？感情の重なりとすれ違いの正体

キス未遂と心の揺れ：「友情」の言葉では包みきれない想い

『光が死んだ夏』の中でも特に読者の心をざわつかせたのが、よしきとヒカルの“キス未遂”のシーンです。ホラーやサスペンスという枠組みを超えて、「あれ、これって…」と誰もが息をのんだ瞬間でした。作中では明言されないまでも、確かにそこには“友情”では片付けられない感情が流れていた。

このシーンが象徴しているのは、“好き”という言葉すら追いつかない、よしきの複雑な想い。大切な存在を失った痛み、でも今目の前にいる“ヒカル”にすがりたいという願い、その両方が絡み合って起こった無意識の行動。だからこそ、あのキス未遂は一種の“感情の漏出”であり、よしきの心の奥底が現れた場面なのです。

読者の間では「BL的」と評されることも多いこの描写ですが、筆者としては、これは単なるラブロマンスではなく、“存在の証明”を求めた行動だと受け取っています。「君が本当に光なら、俺に触れられるはず」という、よしきなりの確認行為だったのではないか。

けれどその試みは未遂に終わり、余計に関係性の輪郭を曖昧にしてしまう。近づきすぎると壊れてしまう、でも距離を置くと忘れてしまいそうな──そんな切なさが、よしきの行動の根っこにあるように思えるんです。

“友情”という言葉では到底カバーできないこの感情の混線こそが、『光が死んだ夏』をただのホラーに終わらせない理由。人間の感情って、こんなにも脆くて、美しくて、そして怖い。

「怖さ」と「好き」は似ている？ホラーで描く恋愛感情の輪郭

『光が死んだ夏』が凄いのは、“怖さ”の中に“愛しさ”が潜んでいるところです。ホラーでありながら、読むほどに「よしきってヒカルが好きなんじゃ…？」と思わせる。そしてその“好き”は、いわゆる恋愛感情としての“好き”に限らず、依存、執着、記憶、救済…様々な感情が混ざり合った、多層的なもの。

特に印象的なのは、よしきがヒカルの存在に対して抱く“恐れ”が、時に“ときめき”にも似た作用を持って描かれる点。人間って、本当に心を揺さぶられたとき、怖いと感じるのか、好きと感じるのか、もはや自分でもわからなくなることがある。『光が死んだ夏』はその“曖昧さ”を最大限に利用しているんですよね。

これは演出的にも絶妙で、静けさと間、目線や息遣いといったディテールが、その“好きかもしれない”という感情を読む者にじわじわと染み込ませてくる。特にアニメ化にあたって、この部分がどう描かれるかは非常に注目ポイントです。

よしきは、ヒカルの“中身が光でない”と気づいていながらも、彼を求めてしまう。そこには確かに“感情”がある。でもそれは恋なのか、ただの喪失補完なのか、あるいは“光そのもの”ではなく、“光という存在を通して見ていた自分”を取り戻したいだけなのか。

筆者の視点としては、「怖い」と「好き」が重なったときに初めて、人は“本気で人を必要とする”のではないかと思ってしまいます。だからこの物語は、愛の形をしたホラーであり、ホラーの形をしたラブストーリーなんです。

“偽物の光”は何者なのか？人間でない存在の切なさ

正体不明のヒカル＝“彼”が宿した感情とは

『光が死んだ夏』の最大の謎のひとつは、よしきの前に現れた“ヒカル”という存在の正体です。見た目も声も、仕草まで本物の光そっくりなのに、どこかが決定的に違う。「光が帰ってきた」ことを喜ぶよしきの胸の奥で、「でもこれは光じゃない」という違和感がずっと鳴り止まない。

この“ヒカル”が何者なのか──作中では明確には語られませんが、読者が読み取る限り、彼は「人ではない何か」に取り憑かれた存在、もしくは“光”の姿を模倣した異物です。けれど、そのヒカルが抱くよしきへの想いが、あまりにも“人間くさい”からこそ、物語は奇妙な重さを帯びていきます。

ヒカルは、ただよしきのそばにいたいと願っている。その願いはどこか純粋で、どこか危うい。だから彼の行動はときに優しく、ときに過剰で、ときに恐ろしく見える。そのすべては、「そばにいたい」という一心から来ている──まるで“感情”を学習していくAIのように、ヒカルは“愛し方”を手探りで掴もうとしているのかもしれません。

筆者としては、ヒカルという存在の魅力は、「人ではないのに、人を求めてしまう矛盾」にあると感じています。彼の中には確かに人間らしい“感情の萌芽”があって、それが育ち始めたときに、よしきとの関係は加速度的に歪んでいく。つまり、これはヒカルが「人間になろうとしている」物語でもあるのではないでしょうか。

この切なさ──「本物じゃない」と思いながらも、そこに宿った想いは本物かもしれない、という感情の錯綜が、本作の持つ最大の引力だと思います。

乗っ取りと模倣、それでも「よしきへの想い」だけは本物？

“ヒカル”という存在が、もしも何者かに“乗っ取られた”光の肉体だとしたら。その存在は、明確に“他者”であると同時に、光の“なれの果て”でもある。そう考えると、よしきが彼に惹かれてしまうことは、理屈ではなく本能の問題なのかもしれません。

ヒカルが光を「模倣」しているのだとしたら、なぜそれほどまでに精緻に真似ることができるのか。その再現力の高さは、単なる模倣を超えて、“憧れ”や“願望”さえ含んでいるようにも見える。そして、模倣であるがゆえに、“感情”だけがオリジナルになっていく。──ここが、本作における一番の逆説なのです。

ヒカルは確かに“偽物”です。でも、彼の「よしきへの想い」は、少なくとも嘘ではない。その“気持ち”だけは、誰にも模倣できない、彼自身のものである可能性がある。そして、よしきもまた、そこに気づきながらも見て見ぬふりをしている。だって、それを認めてしまったら、光をもう一度「失う」ことになるから。

この“乗っ取りとすり替え”の構造は、ホラーとしての怖さを支える一方で、「感情だけはすり替えられない」というメッセージにも通じています。たとえ形が偽物でも、そこにある想いが本物なら──それを“愛”と呼んでしまっても、もう誰にも否定はできない。

筆者としては、ヒカルの存在は「人ではない何か」ではなく、「感情を持ってしまった何か」だと思っていて、だからこそ、彼の切なさは痛いほど胸に迫るのです。彼が求めたのは、“人間としての存在”ではなく、“人間として愛されること”。そしてそれは、最も叶いにくく、最も強く渇望される感情なのかもしれません。

『光が死んだ夏』で描かれる“両思い”の形とは

明確な恋愛関係ではない、けれど“両想い”でしかない関係性

『光が死んだ夏』を語るうえで、「よしきと光（ヒカル）は両思いだったのか？」という問いは避けて通れません。恋愛的な意味で明確な“カップル描写”があるわけではありません。にもかかわらず、多くの読者が「これは両思いだ」と感じてしまう。──それこそが、この物語の感情構造の深さを物語っています。

よしきにとって光は、“守られた記憶”であり、“失いたくなかった過去”そのものです。一方、ヒカルにとってよしきは、“自分をこの世界につなぎ止める錨”のような存在。互いが互いを必要としていて、そこには依存も、執着も、確かに“好き”という感情の延長線上にあるものが重なっています。

そして興味深いのは、それが“愛してる”とも“好きだよ”とも言葉にされない点。曖昧であるがゆえに、読者の中で感情が膨らみ、さまざまな解釈が生まれる。筆者も最初は「これは恋じゃないだろう」と思っていました。でも読み進めるうちに、「いや、これは確かに両思いなんだ」と、気づけば受け入れていたんです。

「好き」という言葉がなくても、「そばにいてほしい」と願う気持ち。それを、どうして恋と呼んではいけないんだろう。形式としての恋愛を越えた、“魂の共鳴”みたいなものが、確かに二人の間には存在していたと感じています。

つまり、『光が死んだ夏』が描く“両思い”は、告白もなければ契約もない。ただ、感情がそこにある。そしてその感情が、人を動かし、時には狂わせ、物語を駆動させていく。それが、この作品の愛のかたちなのです。

感情がすれ違う理由と、ホラーに溶けた“切なさ”の意味

とはいえ、よしきとヒカルの関係性は、常にスムーズに“通じ合っている”わけではありません。むしろその多くが、誤解と拒絶と疑念に満ちたすれ違いの連続です。では、なぜこんなにも気持ちがすれ違ってしまうのか──その鍵は、やはり“ヒカルが光ではない”という前提にあります。

よしきはヒカルに光を重ねずにはいられない。しかし、ヒカルは「光として見てほしい」と願いながらも、“自分自身”としての存在を認めてもらえない苦しみを抱えています。この“ズレ”こそが、両思いであるはずの二人を、もっとも切ない関係へと導いてしまうのです。

本来ならば「君が好きだ」と言えばいい。けれど、『光が死んだ夏』では、その言葉は永遠に出てこない。なぜなら、それを言ってしまった瞬間に、“これは光じゃない”という真実に対峙せざるを得なくなるから。感情を明文化すればするほど、二人の関係は崩れてしまう。だからこそ、互いの気持ちが確かであるほど、口にはできない。

この“言えない想い”の堆積が、物語をホラーから“切なさ”へと引き寄せていく。怖いはずなのに泣きそうになる。おぞましいはずなのに、心が温かくなる瞬間がある。それは、すれ違いの中にこそ本当の想いが見えるから。

筆者は思うんです。ホラーの中に“感情”を滲ませることで、私たちはより深く“人間”を感じられるのだと。『光が死んだ夏』がただの怪奇譚ではなく、心を打つ青春劇として評価されているのは、この“感情のすれ違い”が美しく、そして痛いほどリアルだからなのです。

『光が死んだ夏』考察まとめ

“両思い”かどうかではなく、“想いがあった”という事実

ここまで『光が死んだ夏』を軸に、よしきと光（ヒカル）の関係性について、両思いだったのか？という問いを掘り下げてきました。その中で浮かび上がったのは、“恋愛”という言葉で括るにはもったいないほどの感情の重層性です。

よしきがヒカルに抱く想いは、光という過去への未練、ヒカルという現在への依存、そして“人ではない何か”に感じてしまった戸惑いの愛。それは恋とも、執着とも、祈りとも呼べる。それでも確かに“感情”はあった。──そこが重要なのだと思います。

一方でヒカルは、模倣された存在でありながら、確かによしきに対する“想い”を育てていたように見える。たとえ最初は演技だったとしても、それが本物に変わる瞬間があるとしたら──それを私たちは、もう偽物とは呼べません。

“両思い”という概念は、必ずしも言葉や行動で証明されるものではなく、想いの交差点が確かにあったかどうか。その意味で、よしきと光（ヒカル）は、すれ違いながらも、お互いを強く求め合っていた。だから筆者は、これは確かに“両思いだった”と言いたい。

たとえそれが成就しなくても、たとえどちらかが“人間”でなかったとしても──想いは、確かにそこにあった。その事実こそが、この物語の最大の美しさであり、読後に残る余韻でもあるのです。

“怖さ”の中に浮かぶ“好き”という感情の正体

『光が死んだ夏』をホラーとして読むとき、多くの人が感じるのが、“怖さ”と“切なさ”が紙一重であるということ。恐怖は異物に対する拒絶でありながら、ときにそれは、「本当に大切なものを失いたくない」という願いの裏返しでもあります。

よしきは光を失った喪失感の中で、ヒカルという“異物”を受け入れていきます。それは、怖いはずなのに心が惹かれてしまう──人間の感情の矛盾そのもの。そして、その矛盾の中にこそ、“好き”という感情の正体が潜んでいるように思えます。

ヒカルの存在は、まさに“怖いくらい好き”を体現した存在です。見た目はそっくり。でも中身は違う。それでも好きになってしまったら、それはもう“恋”ではないにしても、“愛”の形なのかもしれない。そんな問いを、この物語は静かに、しかし鋭く私たちに突きつけてきます。

筆者は思うんです。“ホラー×青春”という掛け合わせは、一歩間違えばチグハグになってしまう危うさがある。でも『光が死んだ夏』は、そこを見事に突き抜けた。なぜなら、“怖さ”と“愛しさ”が同じくらいリアルに描かれているから。そして、それが物語としての“本物の感情”を生み出している。

人は、怖いものに惹かれてしまうときがある。そして、ときに“好き”という感情の奥には、どうしようもなく“怖さ”がある。『光が死んだ夏』は、その感情の二面性を描いた、唯一無二の作品なのだと、胸を張って言いたいです。