光が死んだ夏 ブロマンス要素を読み解く｜友情か愛情か、境界線にある関係性とは

「友情」と「愛情」のあいだにある、名前のつけられない“何か”。

漫画『光が死んだ夏』は、田舎の閉鎖空間という舞台で、少年たちの関係性を「ホラー」と「ブロマンス」という交差点で描き出す。

よしきと“光じゃない何か”の共依存的な絆、その違和感と執着には、ただの友情では括れない体温と揺らぎがある。

本記事では、原作の深層に潜む〈友情と愛情の境界線〉を、「ブロマンス」「怪異」「田舎の生理的閉鎖感」という3つの観点から読み解いていく。

彼らの関係は“恋”なのか、それとも“救い”なのか──感情の名を問うた先に見えるものとは。

『光が死んだ夏』とはどんな作品か

田舎のホラー×青春ブロマンスという特異なジャンル性

『光が死んだ夏』は、2021年からヤングエースUPで連載開始された、モクモクれん氏による怪奇青春マンガです。累計発行部数はすでに300万部を突破し、2025年7月にはアニメ化も控える注目作品。物語の舞台は、山あいの静かで閉鎖的な田舎町。主人公・よしきと“光じゃない何か”との同居生活を描く本作は、ジャンルとしては「ホラー」に分類されながらも、“友情”とも“愛情”ともつかない複雑な感情の交差点を見せつける“ブロマンス”としても評価が高まっています。

一見するとホラー×田舎×青春という構造ですが、そこに“少年同士の関係性”という要素が重なった瞬間、この物語は“ジャンルの名前で呼ぶことができない”感情群に読者を突き落とします。誰もが経験する「失った友人との再会」、ただしそれが“本物”ではないという前提から始まる日常は、もうそれだけでじゅうぶんに怖い。だけど怖さの中に、妙なやすらぎや、むしろ恋のような切なさが潜んでいる──この構造が、読み手の心をかき乱す。

こうした異種混合的な構成が、『光が死んだ夏』を単なるホラーでも、単なるBLでもない“怪奇ブロマンス”と呼ばせるゆえんです。読者の中には「これはラブストーリーでは？」と感じる人もいれば、「これは友情の物語だ」と語る人もいて、そのどちらの視点も否定できない。作者自身も「ジャンルは読者に委ねる」としており、明言しないことで逆に関係性の多層性を生んでいます。

この作品が真にユニークなのは、“恐怖”と“愛しさ”を同時に描いている点です。どちらか一方ではなく、読者の中でそれらがせめぎ合うように仕掛けられている。そのせいで、よしきの抱える感情がいったい何なのか、ページをめくるほどにわからなくなってくる。読者自身が、感情の輪郭を掴めないまま、登場人物たちと同じ“境界の上”を歩かされるわけです。

この“ジャンルのあわい”にある物語構造こそが、『光が死んだ夏』最大の魅力だと感じています。ジャンルというラベルの外で、読者自身が物語に名前をつける。これは、物語体験としてもかなり貴重なものです。

だからこそこの作品は、ホラー好きにも、ブロマンスファンにも、BLに惹かれる読者にもそれぞれ異なる“刺さり方”をする。感情を固定せず、むしろ揺らすように語る構成──そこに、物語という名のナイフのような鋭さがあると、僕は思うんです。

作者・モクモクれんが描く“名づけられない感情”の輪郭

作者・モクモクれん氏は、デビュー作である本作で一躍注目を浴びました。SNSを中心にじわじわと話題となり、単行本も重版を重ね、今やジャンプ系作品とは異なる“静かな熱狂”を築いています。れん氏の作風には、“語られないものをどう描くか”という姿勢が一貫していて、登場人物たちの感情は、セリフではなく“間”や“表情”、“沈黙”の中で輪郭を得ていくのです。

特に“光”という存在の描き方は象徴的です。“光ではない何か”なのに、外見も声も、しぐさも、まるで光のまま。けれど、よしきだけはその違和感に気づいている。そして、その違和感を「正そう」とはしない。むしろ彼はそれと共に“生きよう”とするのです。この奇妙な決断が、彼の中の感情が単なる「親友への愛」では済まないことを示唆しているように思えます。

モクモクれん氏はTwitterで「ジャンルは好きに解釈してほしい」と何度も語っており、ブロマンスやBLというラベルに限定されることを避けています。それは、作品に含まれる“名づけられない感情”を、読者の経験や価値観によって違ったかたちで咀嚼してほしい、という作家としての美学とも取れます。

この語らなさこそが、読者の想像力をかき立てます。よしきの感情が友情なのか、それとも愛情なのか。その境界がはっきりしないことで、読者自身の“感情の輪郭”を試される。それは時に、自分自身の心の奥を覗き込むような感覚すらあります。

“ブロマンス”という言葉でさえも、この作品を完全には語れない。そう断言したくなるほどに、『光が死んだ夏』は感情の流動性に満ちた作品です。そして、それを可能にしているのが、モクモクれんという作家の、抑制された筆致と“行間の熱”なのだと、読み進めるたびに思い知らされるのです。

よしきと光──友情か愛情か、その微妙な距離感

“本物ではない光”と暮らす日常の異常性

『光が死んだ夏』の核となるのは、主人公・よしきと“光ではない何か”との関係です。物語冒頭、よしきの幼なじみである光は山で行方不明となり、やがて“ナニカ”に憑かれた姿で戻ってくる。けれども、それは明らかに“本物の光”ではない。にもかかわらず、よしきはその存在を受け入れ、むしろ誰よりも近くに置き、日常をともに過ごしていくのです。

この「受け入れ」の異常性が本作の要であり、読者が最初に心をざわつかせるポイントでもあります。もし彼が“偽物”を拒んでいたならば、これはただのホラーで終わっていたかもしれない。しかし、よしきは拒まず、逃げもせず、むしろ“守るように”偽物と過ごす。それは一体、なぜなのか。なぜ彼は、そこまでして“光ではない何か”を傍に置き続けるのか。

この疑問こそが、よしきの感情の正体を探る導線になります。作中では明言されないその感情の名前を、私たち読者は「友情」として見るのか、「愛情」として見るのか、あるいはその両方なのか──答えの出ない問いと向き合わされるのです。

よしきが光（のようなもの）と過ごす日常には、“異常な安定”がある。言い換えれば、「壊れているのに、平穏」という空気。読者としては「なぜ逃げないのか」「なぜ普通に暮らせているのか」と不安を抱きながら読み進めるのですが、それと同時に、ふと自分の中にも“こういう感情”を知っているような気がしてくる。つまり、理屈ではなく“感情の既視感”が、彼らの距離感を納得させてしまう。

本物じゃない。でも、いなくならないでほしい──そんな切実な欲求が、ホラーを超えて心に残るのです。

執着、依存、保護欲──よしきの内面に宿る愛の形

『光が死んだ夏』で描かれるよしきの感情には、「執着」「依存」「保護欲」といったキーワードが色濃くにじみ出ています。それは、明るく健康的な“青春友情”とはほど遠いもの。むしろ、得体の知れない存在に取り憑かれたように、“光ではない何か”に対して異様なまでの執着を見せるのです。彼がその存在を受け入れてからの日々は、どこか病的なまでに“守る”ことに傾いていきます。

そしてこの“守る”という行動がまた、彼の感情が単なる友情ではないことを匂わせる。誰かを「守りたい」と思う感情には、時に“恋”にも似た衝動が含まれます。とくに、『光が死んだ夏』のように、失われたものへの渇望と向き合う物語では、その想いは一層濃く、痛々しく見えてくる。

よしきは、光を失ったのではなく、「光を失ったことを認めたくない」とも言える。だから、“光ではない存在”でもそばにいてほしい。むしろ、その存在でなければならないという執着が、彼の選択や言動にじわじわと滲んでいくのです。

この感情が“恋”だと断言するのは、たぶん早計です。でも、“友情”という言葉では表しきれないのも確か。もっと言えば、読者自身が「これって恋なのかな……？」と迷ってしまう時点で、この物語の仕掛けは成功しているのだと思います。

“ラベルをつけられない関係性”の持つ濃度と熱量。それは、読者の想像力を刺し、心の中に“感情の亡霊”を呼び起こしてくる。よしきの愛のかたちは、そんな亡霊のように言葉にならないまま、でも確かにそこにあるのです。

“ブロマンス”という視点から読み解く感情の揺らぎ

ブロマンスとBLの違い：『光が死んだ夏』はどこに位置づけられるのか

『光が死んだ夏』が多くの読者にとって特別に感じられる理由のひとつが、よしきと光（のようなもの）の関係が「BL（ボーイズラブ）」でもなく、「ただの友情」でもなく、あいだにある曖昧な領域、“ブロマンス”として成立している点にあります。ブロマンスという言葉は、一般的に「親密な男性同士の絆」を指しますが、そこに性愛は明確には含まれません。けれども、ある種の“ときめき”や“執着”が存在し、時に読者の心に“恋に近い何か”を生み出すのです。

『光が死んだ夏』は、BLジャンルとして分類されることもありますが、公式には明言されていません。作者であるモクモクれん氏自身も「ジャンルは読者に委ねる」と語っており、実際にはBL的な枠組みを超えた“感情の物語”として読む方がしっくりきます。事実、作品の根底にあるのは、「好き」「嫌い」「怖い」といった明確な感情ではなく、“わからなさ”に基づいた関係性です。

よしきと光は、お互いを完全に理解しているわけでもなければ、恋人として言葉を交わすわけでもない。それでも、その関係の密度は、他の誰よりも濃く、そして危うい。読者がそのあわいに揺さぶられるのは、ブロマンスというジャンルが本来持つ“言葉にならない心の動き”に忠実だからだと感じます。

BLにはBLの良さがあります。けれど、『光が死んだ夏』の魅力は、「好きだ」とも「愛してる」とも言わない、それでも「その人を失いたくない」という感情のグラデーションにある。そうした繊細な描写が、この作品を単なるラブストーリーでは終わらせない深みに導いているのです。

“ラブ”とは名付けられないけれど、確かに“愛しい”──ブロマンスとは、そんな未定義の感情に名前を与える装置なのかもしれません。

ジェンダー／性愛の境界をぼかす語りの仕掛け

『光が死んだ夏』が放つ魅力のひとつに、ジェンダーや性愛の概念を曖昧にしながら語る巧妙な仕掛けがあります。よしきは、光の“中身”が誰であれ、彼と共にいようとする。それは“中身が光だから”というよりも、“外見が光であること”を選び取っているようにも見える。けれどそれは決して欺瞞ではなく、むしろ真剣な感情の表れであるように読めるのです。

この感情のかたちは、異性愛や同性愛といった枠では語りきれません。そこにあるのは、アイデンティティの揺らぎを受け入れた先にある“関係性”そのものへの執着です。つまり、性別や正体ではなく、「光」という存在の“記憶”や“残像”と共にあることを、よしきは選んでいる。

海外の読者からは、“クイアプラトニック”な関係という言葉で評価されることもあります。これは、ロマンティックでも性的でもないけれど、非常に深くて強い情愛をともなう関係性を指します。この言葉がまさに、『光が死んだ夏』の本質にぴたりとはまると感じました。

よしきの感情は、恋なのか、哀しみなのか、それとももっと深い何かなのか。私たちはそれを、BLという枠の内外から問い続けることになります。そして、この問いの答えは物語の中には用意されていません。むしろ、読者が“自分の中の境界線”を確かめるように読み解いていくことで、この作品の本当の深さに気づけるのです。

『光が死んだ夏』は、読者一人ひとりの“感情のものさし”を問う作品です。ジェンダーも性愛も、ジャンルも超えて──たったふたりの少年の、名前のない絆が、そこにあるだけで胸を打つ。それが、この物語の唯一の確かさなのだと思います。

ホラー演出とブロマンス表現の化学反応

「怖さ」と「好き」が同時に胸を締めつける瞬間

『光が死んだ夏』という作品は、ホラーとブロマンスという一見相反する要素を、奇跡のバランスで同居させています。幽霊や怪異の存在、田舎の閉鎖性、夜の静けさに潜む恐怖──こうしたホラー演出が物語全体を包み込みながらも、登場人物の間に流れる“好き”という感情の微熱が、ふとした瞬間に胸を締めつけてくるのです。

たとえば、よしきが“光ではない何か”と共に過ごす何気ない日常の中に、妙に丁寧な仕草や、そっと触れる手の動きが描かれる。その優しさに「好きかもしれない」と思うと、次の瞬間には不気味な描写や、異様な沈黙が入り込んでくる。感情の振れ幅がとにかく激しい。そして、それがものすごくリアルなんです。

私たちは、何かを“好きになる瞬間”に理屈を求めません。ただ、そこに“いてほしい”と願うだけで、その存在は特別になります。よしきにとっての“光じゃない光”は、まさにそういう存在。たとえ怖くても、たとえ本物じゃなくても、それでも「ここにいてくれること」がすべてになっていく──その感情が、読者にも静かに伝染していく。

ホラーとしての「不安定さ」と、ブロマンスとしての「不確かさ」が重なることで、この物語は独特の緊張感を生み出しています。どちらかに寄せるのではなく、どちらの要素も“両立”しているからこそ、“怖くて、でも好き”という相反する感情が同時に成立してしまう。

そして、その感情に名前をつけられないまま読み終えたとき、私たちはこの物語に取り憑かれているのかもしれません。そう、『光が死んだ夏』は、読者にとっての“ナニカ”になる──そう感じてならないのです。

光という存在の不気味さと魅力の両立

作中における“光”は、ある意味で“人ではない”存在として描かれています。声も顔も、動きもかつての光と変わらない。けれど、その奥にある“何か”が明らかに違う。その違和感が、よしきにとっての恐怖であり、同時に強烈な引力にもなっている。

この“光”は、いわば“喪失の再構築”です。失ったものが、そっくりそのままの姿で戻ってきたら──あなたはそれを受け入れますか？ 拒絶しますか？ よしきは受け入れた。そこにあるのは、絶望か、それとも祈りか。光はその問いを、存在そのもので突きつけてくる。

恐怖の正体が“わからなさ”にあるのと同じように、愛の正体もまた“わからなさ”の中にあります。よしきが光を見つめるまなざしには、確かに恐れがある。けれど、それと同じ強度で、“それでも一緒にいたい”という願いが込められているのです。

読者としても、光の言動や佇まいにゾクッとさせられる一方で、なぜか惹かれてしまう。この“わかりたくて、でもわかりきれない”という感覚が、本作における光のキャラクター性を、ただのホラー的存在以上のものにしています。

不気味であることと、魅力的であることは、対立しない。この作品が教えてくれるのは、むしろその両立こそが人を強く惹きつけるという事実。だからこそ、“光”という存在は怖くて、美しいのです。

“光が死んだ”というタイトルに込められた関係性の断絶と再構築

なぜ「死んだ」とされたのか：喪失と再会の意味

タイトル『光が死んだ夏』は、ただの出来事を表すものではありません。それは、物語の感情構造そのものを象徴しています。よしきにとって“光が死んだ”という事実は、彼の中にある何かが、確かに壊れたことを意味します。それは友情なのか、日常なのか、それとも自分自身の心なのか──明言されないからこそ、その“死”の重さが読者にも刺さってくるのです。

物語冒頭で、よしきと読者は「光は戻ってきた」と思います。けれど、それはすぐに打ち砕かれる。目の前にいるのは光“のようなもの”であって、かつての光そのものではない。つまり、“光が死んだ”というタイトルは、すでに確定してしまっている結末でもある。

では、なぜ作者はこの断定的なタイトルを選んだのか。おそらくそこには、“本当の死”とは、肉体の消失ではなく、“関係性の終わり”を意味するというメッセージが込められているのではないかと、私は思っています。

人は、関係性が壊れたときに喪失を感じます。そして、喪失を抱えながら、そこに“似たもの”を見出してしまう。『光が死んだ夏』は、その心理を極限まで押し広げた作品です。よしきが見つめる“光ではない何か”は、失ったものの影であり、同時に、もう一度愛そうとする対象でもある。

喪失の先に、再会がある。でもそれは、まったく同じ再会ではない。その不完全さこそが、この作品に流れる痛みと温度なのです。

光を愛することは、過去を受け入れることか、それとも否定か

よしきが“光じゃない光”と過ごす日々は、ただのホラー体験ではありません。それは、「過去をどう扱うか」という物語でもあります。よしきにとって光は、“過去の象徴”です。そしてその過去は、美しい思い出であると同時に、“喪失の傷跡”でもある。

よしきが今の“光”を受け入れるという行為は、過去を抱きしめることにも似ています。でもそれは、過去を肯定することではないかもしれない。むしろ、“偽物でもいい”という選択は、“本物の光”の死を、ある意味では“否定”しているようにも見えるのです。

この相反するふたつの感情──「愛したい」と「認めたくない」──が、よしきの中で同時に存在する。だからこそ、読者は彼の選択をただの感情論では処理できず、何度もページを戻りながら、心の奥で“自分ならどうするか”を問い始める。

この問いこそが、『光が死んだ夏』という作品を深くする最大の装置だと思います。愛するという行為には、受け入れることと、目をつぶることの両方が含まれる。ときにそれは、再構築でもあり、逃避でもある。そしてよしきは、その両方の感情をもって、いま目の前にいる“光”と向き合っている。

『光が死んだ夏』というタイトルは、だからこそ重たい。死んだはずのものを、もう一度“好きになってしまう”こと。それは正しいのか、間違っているのか。答えは出ません。でも、そうやって揺れること自体が、人が人を思うということなのかもしれません。

『光が死んだ夏』をブロマンス視点で読む魅力まとめ

境界線の上で揺れる感情こそが、この物語の核心

『光が死んだ夏』という物語が読者の心を強く掴んで離さない理由──それは「友情と愛情のあいだにある名もなき感情」が、物語全体を貫く軸になっているからです。ブロマンスという言葉で表される関係性は、明確なラブストーリーとは違い、“境界の上”で感情が揺れ続ける緊張感こそが魅力。

よしきが光（のような存在）を想う気持ちは、決して単純ではありません。守りたい、でも怖い。好きかもしれない、でも違うかもしれない。そうやって葛藤しながらも、その存在を選び取る。読者もまた、その微妙な揺れを“感覚”として共有し、どこか自分の経験や記憶と重ねていくのです。

この“あいまいさ”を描ける物語は、実はとても稀です。ほとんどのフィクションは、明確な感情の決着点を用意してくれます。けれど『光が死んだ夏』は、むしろ「わからないことの尊さ」を提示してくる。それは、作品の中で描かれる“関係性の不確かさ”と呼応しながら、読者の心に“わからないままの好き”を残していくのです。

友情でも、愛情でも、家族愛でもない何か──そのグラデーションを言語化しようとする読書体験は、まるで心の境界を歩くような不安定さと、得がたい繊細さをもたらしてくれます。

だからこそ、“境界線の上で揺れる感情”こそが、この作品の核心であり、ブロマンスとして読む最大の面白さなのだと、私は強く思うのです。

再読したくなる“感情の余白”と読者の想像力

『光が死んだ夏』は、一度読んだだけではすべてを受け止めきれない物語です。むしろ、読了後に心の中に残る“違和感”や“余白”こそが、再読を促す最も強い動機になっています。「このときのよしきの気持ちは本当に友情だったのか？」「なぜあの言葉を口にしたのか？」──ページを戻って確かめたくなるポイントがいくつもある。

この“感情の余白”が、読者の想像力を刺激します。そして再読するたびに、前回とは違った見え方が生まれる。初読ではホラーに感じた場面が、二度目には“切なさ”に変わることすらある。これが、感情の多層性を描いたブロマンス作品の醍醐味でもあります。

また、作者・モクモクれん氏の演出も非常に巧妙で、セリフではなく“間”や“視線”、“沈黙”にこそ本音がにじむ構成になっている。そのため、読み取る側の“感性”によって、作品の意味が大きく変わるのです。これは“答えを明かさない物語”の持つ、圧倒的な強度だと感じます。

ブロマンス視点で読むことで、こうした“あいまいな感情”が一層際立ちます。明確な告白も、キスシーンもない。だけど、それ以上に“心が触れた”と感じる瞬間がある。そういう静かな激しさが、この物語には詰まっている。

そして何より──読めば読むほど、“自分の感情”が作品に重なっていく。この感覚を味わったとき、あなたにとっての『光が死んだ夏』は、ただの漫画ではなく、“自分自身を映す鏡”になるのかもしれません。